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オール怪談34【遥かなる歳月】 

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オール怪談34  【遥かなる歳月】
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(S37/9)掲載作品

・殺さないで!(いばら美喜)
・遥かなる歳月(小島剛夕)
・灰色の渦(落合二郎&サツキ貫太)

怪談87に再録されています。



遠い過去、流れ来し幾歳月、この湯の里に住む老夫の胸に今なお去来するものは・・・・。歳月が忘れさせてくれたはずの面影。その面影が遠く聞こえる祭囃子とともに老夫の目にはっきりと蘇えった。

河霧の中に面影を追う老夫。その姿は一人のいで湯客の陰に吸い込まれた。
「何故、今頃になって嬢さんの面影を・・・。」
老夫は、問わず語りに胸に秘めてきた想い出を語り始めた。老夫には、一言・・・たった一言を言いそびれたばかりに一生を棒に振った哀しい過去があった。

老夫、いや『源』が江戸でも指折りの料亭の主人に腕を見込まれ、包丁の修行を始めたのは十七の年だった。一人前の板前を目指す『源』の生甲斐がもう一つあった。料亭の一人娘『嬢さん』だ。お互いに心を通わせながら奉公人という身分では想いを告げる術のない『源』であった。

やがて当然のように『嬢さん』に縁談が持ち上がった。「おめでとう」・・・その一言しか言えない『源』。十七になる娘は手古舞姿となって祭りの先導を勤める。『源』は『嬢さん』の手古舞姿を楽しみにしていた。しかしその手古舞に出ればすぐに婚礼だった。

祭りの当日、『嬢さん』が花笠を忘れていった。『源』は花笠を持つと手古舞の行列を追った。この日ばかりは日頃心に思っている娘におおっぴらに声をかけられる・・・。行列の見物人のそんな声に思わず大きく「お嬢!!!」と声をかける『源』。その声に振り返る『嬢さん』の視線を避けるように『源』は江戸を出て古里に舞い戻ったのだった。

「そうでしたか・・・。」突然、霧の中でぶつかったあのいで湯客が『源』の前に現れた。「妻が生前、この名も知れぬいで湯の里へ来たがったわけがわかりました。」その客こそ『嬢さん』の夫、深川の材木商『一柾』だった。「逢ってやってください。」

『源』の手に『嬢さん』の位牌を手渡す『一柾』。「そうか、さっきの面影は・・・。そうだったのか・・・。」位牌を手にフラフラと歩き出す『源』。「逢ったのです。私とお嬢はさっき、ここで逢ったのです。」『源』の言葉を聞きながら『一柾』もつぶやく。「妻とあの人との間にはどんな歳月もなかったのだ・・・。」

歳月というせきとめることの出来ぬ悠久の流れにも流れ果てぬものが心と心の見えざる糸ではないだろうか?
オール怪談 | TB(0) | CM(0) [ 2008/08/18 18:11 ]
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風かをる

Author:風かをる
その旅は昔々店じまいをした貸本屋さんから譲っていただいた数冊の「長篇大ロマン」から始まりました。
小島剛夕作品に魅せられてン十年。果てしない探求の旅が続いています。

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