45 怪談 雪・月・花
(解題)
つばめ出版発行。 本編132ページ。 昭和41(1966)年2月頃に出版された。 『書籍雑誌卸月報』には同年の1月号に出版広告が載っているのを確認。 これは書き下ろしの長編作品ではなく、タイトルの「雪月花」に合わせた三つの短編作品から成る異色のオムニバスである。 第一話「花の章・匂いの君」は、挫折した医者志望の青年が山奥の部落へ向かう武士の一行に出会い行動を共にするお話。 第二話「月の章・蒼い影法師」は、仇討ちを諦めぬ武辺者の兄と武士道に疑問を感じて別の道を行く弟の皮肉な運命を描く。 第三話「雪の章・雪に棲む鬼」は、姦計を用いて他人を意のままに操ろうとする悪魔のような男に魅入られた姉弟を謎の侍が救うお話。 三話共に読み応えのある佳作で、人間の愚かさと「雪月花」の自然の対比が見事に表現されている。 第三話「雪に棲む鬼」は、後にリメイクされ、同じ題名で集英社発行の『ジョーカー』昭和44(1969)年9月12日号発表された。 また、未確認なのだが、双葉社発行の『週刊漫画アクション』昭和44(1969)年9月18日号に掲載された「雪山の鬼侍」は第一話「匂いの君」を解題の上リメイクしたものではないかと思われる。
(あらすじ)
第一話「花の章・匂いの君」/貧乏浪人の息子ゆえに御典医への道を断たれた青年。 絶望した彼は自殺すべく美しい雪山にその地を求めた。 決して戻らぬ登山の途中で、青年は山奥の部落へ向かう武士の一行に出会う。 一行は隣国との国境線確定という密命を受け、先を急いでいた。 リーダーの武士・貴田は、怪我をして歩けない者を斬り捨てたり、疲労の極限にある者を無理やり歩かせて死に至らしめたり、崖から転落しかけた者を見殺しにしたりと、任務遂行のため血も涙もない非情さで一行を統率した。 止むを得ず一行と行動を共にすることになった青年は、鬼のような振る舞いの貴田が時折見せる淋しそうな背中に僅かに残った人間らしさを感じ取る。 かつては温厚な男だった貴田が、なぜ鬼神の如くなったのか。 その訳は、目的地の部落にあった…。
第二話「月の章・蒼い影法師」/夜空に蒼く輝く美しい月は、その兄弟の皮肉な運命の全てをじっと見詰めていた。 大牟田主水と慎吾の兄弟は、父の仇を捜して七年間、いまだ目的の相手を見つけられず、知り合いの町人の家に厄介になっていた。 放浪生活に疲れ果て居候先の娘に恋心を抱いた弟の慎吾は、敵討ちを諦め違う道を歩みたいと言い出す。 だが、武士道に一徹な兄の主水は、敵討ちを諦めず一人で旅立っていった。 それから一年、違う道を歩みたいと言った慎吾は、身を持ち崩して無頼の徒に成り下がっていた。 ある夜、ヤクザ同士の縄張り争いに加勢した慎吾は、相手方の用心棒と対決し、一撃で切り倒す。 今わの際に用心棒が告げたその名に慎吾は愕然とした。 長い年月捜していた父の仇、その人だったのだ。 その夜を境に、慎吾は一躍時の人となった。 故郷に錦を飾った慎吾。 諸国放浪の間疎遠だった人々も帰国した慎吾を温かく迎えてくれた。 しかし、その中に兄・主水の姿はなかった。 主水は慎吾が仇を討ったのを知らず、相手を捜してまだ諸国を彷徨っているのだった。
第三話「雪の章・雪に棲む鬼」/吹雪が来る前に山を越えようと急ぐ旅の侍は、その道すがら、山奉行暗殺の瞬間を目撃する。 下手人は二人組で、そのうちの一人は一刀流の達人だった。 やがて空模様は悪化して、吹雪となった。 旅の侍は峠道に倒れていた美しい娘を介抱し、訳を聞いた。 多恵という名のその娘は、行方の分からなくなった父を捜しに来たのだという。 多恵の父は、暗殺された山奉行であった。 吹雪の中、城下まで送り届けてくれた旅の侍に対して、多恵は恋心にも似た好意を抱く。 だが、多恵は、白井紋十郎という最近仕官したばかりの新参者に付き纏われていた。 多恵は白井を嫌っていたが、白井はそんなことお構いなしに執拗に迫ってきた。 実は白井は一刀流の達人で、多恵の父を殺した犯人だった。
(補足/by風かをる)
「解題」にある「雪山の鬼侍」は間違いなく「匂いの君」の描きなおし作品です。 また、第二話の「月の章・蒼い影法師」は『刃・3』(昭和34年8月頃の発行)に掲載された「
流れ雲」を解題しリメイクしたものです。

