37 紅だすき素浪人(純愛忠臣蔵シリーズ2)
(解題)
つばめ出版発行。 本編126ページ。 昭和39(1964)年8月頃に出版された。 巻末の作者あとがきにもある通り、並々ならぬ意気込みで描かれた「純愛忠臣蔵シリーズ」の第二弾。 四十七士の中でもとりわけ人気のある中山安兵衛=堀部安兵衛のお話である。 ご存じ高田馬場の決闘から始まって、堀部家への婿入り、松の廊下での刃傷、仇討ちを主張する急進派のリーダーとして大石内蔵助に直談判するまでを、サイドストーリーとして吉良家家臣・清水一学との交流を挟みながら、一気呵成に描く。 作中、高田馬場の決闘において、一学の助言と堀部弥兵衛の娘の手助けにより、安兵衛がたすきを直すシーンは、五味康祐の傑作小説「薄桜記」から影響を受けている。 また、吉良上野介を領民に慕われる名君として描いているのがこの作品の特徴で、巻末の作者あとがきでは、小島は吉良悪役説に対して疑問を投げ掛けている。 なお、この作品は後にリメイクされ、「剛夕忠臣蔵」シリーズの一つとして、『別冊漫画アクション』昭和45(1970)年8月8日号と8月22日号に全二回連載された。
(あらすじ)
浪人・中山安兵衛は、義理の叔父・菅野六郎左衛門がかねてより遺恨のある村上兄弟と高田馬場にて決闘するとの知らせを受け、牛込天龍寺竹町の長屋を走り出た。 高田馬場へ向かう途中、安兵衛は騎馬の武士を追い越すが、その武士こそ清水一学であった。 馬上の一学は、走り去る安兵衛の後姿を見て、彼の締めたたすきが決闘の最中に解けるのではないかと心配する。 一学の不安は的中した。 高田馬場の決闘の場に到着した獅子奮迅の活躍を見せるが、たすきが解けて思うように動けなくなる。 あわやというところへ、一学が駆け付け、村上側を制して、安兵衛にたすきを絞めなおすよう助言する。 偶然居合わせた堀部弥兵衛の娘の手助けによりたすきを絞めなおした安兵衛は、村上兄弟を斬り伏せる。
高田馬場の決闘は江戸中の大評判になった。 安兵衛の家には士官を勧める大名の使いが連日訪れた。 だが、実の親のように慕っていた菅野六郎左衛門を決闘で失った安兵衛には、恩人の死を踏み台にして出世する気など毛頭なかった。 そこへ堀部弥兵衛が訪れる。 高田馬場での決闘を娘とともに見ていた弥兵衛は、安兵衛にぞっこん惚れ込んでいて、是が非でも娘の婿に、と思っていた。 中山の姓を守るため婿養子にはなれないという安兵衛に対し、弥兵衛は堀部の姓を捨てても構わないと言い返す。 老人の嘘偽りのない押しに安兵衛は負けた。
こうして、中山安兵衛は堀部安兵衛となり、播州赤穂・浅野家の家臣となった。 しかし、幸せな日々は長くは続かなかった。 主君・浅野内匠頭が江戸城殿中松の廊下にて吉良上野介に対し刃傷に及んだのだ。 安兵衛は、義のために再び刀を抜かなければならなくなったのである。


