35 お軽と勘平(純愛忠臣蔵シリーズ)
(解題)
つばめ出版発行。 本編128ページ。 昭和39(1964)年6月頃に出版された。 昭和39年と言えば、NHK大河ドラマの第二作「赤穂浪士」が放送された年でもある。 その人気テレビドラマに挑戦するかの如く、小島剛夕が全力を傾注して描いたのが、「純愛忠臣蔵シリーズ」全六作だ。 その第一作は、あまりにも有名な「お軽と勘平」のお話である。 最初から100ページ目までは、お軽と勘平の初々しい恋が浅野内匠頭とその妻・阿久利の夫婦愛と対比して描かれ、江戸城内松の廊下の刃傷へと至る。 その後は、人形浄瑠璃・歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」の五段目と六段目のストーリーをほぼ忠実に描いている。 もちろん、猪と定九郎も登場する。 なお、この作品は、「純愛忠臣蔵シリーズ」全六作の中で唯一再録もリメイクもされていない。
(あらすじ)
参勤交代の途次、山崎街道のとある桜の木の下で休息を取る主君・浅野内匠頭のために、家臣の早野勘平は近くの漁師の家に白湯を求めた。 すると出てきたのは貧しい漁師の家庭に似合わぬ美しい娘だった。 娘は名をお軽といった。 内匠頭はお軽の作った「さくら湯」をたいそう気に入り、勘平は面目を施した礼をお軽に告げた。 その日から、お軽と勘平の心にはお互いの面影が宿り二度と消えることはなかった。 二人は恋に落ちたのである。 翌年の春、浅野家の行列がお軽の家の近くを通った時、内匠頭はお軽の作る「さくら湯」を再び所望した。 休息を終えて行列が出立する際、勘平はお軽に「来年元服したら、そなたを迎えに来たい」と告げる。 だが、貧乏に窮したお軽の父は、代官のもとへ腰元として奉公に出してしまう。 そして代官が在藩明けで江戸へ帰ると、お軽もまた江戸へ一緒に発ってしまった。 それを聞いた勘平は酷く落胆するのだった。
ある日、お軽は浅野家江戸屋敷を訪ねた。 すると勘平は国許の赤穂にいて江戸にはいないという。 気を利かした家中の者が主君・内匠頭に取り次いで、お軽は内匠頭と再会する。 お軽の勘平への想いを察した内匠頭は、お軽を浅野家に引き取り、国許にいる勘平を呼び寄せる。 再会を喜ぶお軽と勘平。 二人は内匠頭の優しさに深く感謝する。 だが、時をほぼ同じくして、内匠頭には幕府から勅使御饗応役の命が下っていたのである。


