33 ふり袖日傘
(解題)
つばめ出版発行。 本編130ページ。 昭和39(1964)年3月頃に出版された。 いわゆる「お染久松」のお話を題材にした近松半二による人形浄瑠璃「新版歌祭文(しんぱんうたざいもん)」を漫画化。 とりわけ有名な「野崎村の段」をクライマックスに配置して、身分違いの恋の行方を情緒豊かに描く。 原作を自由に解釈し改変してしまうことが多い「長篇大ロマン」シリーズの中では、ラストを除き、原作の骨子や設定をあまり変えることなくほぼ忠実に再現した珍しい作品である。 物語中盤のお染と久松が「野崎参り」を夢想するシーンは秀逸。
さて、実際の「お染久松」のお話には二説ある。 ひとつは大坂の豪商の娘・お染を誤って水死させた丁稚の久松が責任を痛感して土蔵で首を吊ったという事件が、噂話が広がったり歌祭文で歌われたりするうちに、主家の娘と奉公人の道ならぬ恋の悲劇的な物語に置き換えられたとする説。 もうひとつは、主家の娘・お染と丁稚の久松が心中した事件が本当にあったとする説。 いずれにせよ、この小島作品のラストは、心中という悲しい結末を採用していない。
(あらすじ)
久松は、れっきとした武士の子であった。 父は無実の罪を着せられ無念の切腹。 一族全て死罪というところを、赤子の久松のことを哀れんだ乳母のお庄が密かに連れ出し、お庄の兄・久作のもとで今日まで育てられてきたのだった。 久松が十六歳になった時、武家社会を嫌う久作は、久松の将来を考えて、大坂の豪商・油屋へ丁稚奉公に出すことを決める。 久作は、久松の年季が明けたら、娘のお光と結婚させるつもりでいた。 奉公先の油屋に着いて早々、久松は、美人だが傲慢で性格のきつい娘に出会う。 そのツンデレ娘こそ、油屋の一人娘・お染であった。 お染は、他の奉公人と違い、はっきりと意見を言う久松を気に入った。 久松もまたお染の美しさに魅かれ、辛い奉公の励みとした。 やがて二人は恋に落ちる。 だが、それは、江戸時代の封建社会において身分違いとして許されぬものであった。


