(解題)
ひばり書房発行。 本編128ページ。 「ひばりの漫画全集」第323巻として昭和33(1958)年6月頃に出版された。 時代劇の巨匠・小島剛夕の記念すべき漫画家デビュー作。
高貴な血筋に生まれた謎の素浪人かげろう扇四郎が主人公。 次期将軍の暗殺を企む大目付の陰謀を巡って、必殺剣「かげろう殺法」の使い手である扇四郎・彼を付け狙う隻腕の怪剣士左文字典獄・謎の強盗団「黒猫組」・幕府の弾圧に恨みを抱くキリシタン集団「紅クルス」など多彩な登場人物が入り乱れる痛快娯楽時代劇。
柴田錬三郎・五味康祐・南條範夫ら当時の人気時代小説家のエッセンスを取り入れたスケールの大きな物語を、小島剛夕はデビュー作とは思えない流麗な描線と大胆な構図でテンポ良く活写。 無駄の無い描写力と話術は処女作においてすでに完成の域に達し、凡百の貸本漫画家とは一線を画する才能を見せつけた。 他の有名作家のデビュー作と比べても、これほど優れた出来栄えの作品は滅多にお目にかからない。
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(あらすじ)
江戸八百八町は夜な夜な恐るべき強盗団に怯えていた。 その名を「黒猫組」といい、彼らが暴虐の限りを尽して去った後には、必ず青銅のマリア観音が残されていた。 幕府は島原の乱の残党による犯行と睨んでその行方を追い、キリシタンに対する迫害弾圧を一層強める。
「かげろう殺法」の使い手である凄腕の素浪人かげろう扇四郎は、ある夜、謎の女の導きによって「黒猫組」の集会に潜入し、彼らがキリシタンを装って幕府の転覆を狙う一味であることを知る。 「黒猫組」は、犯行現場にマリア観音を残すことで、キリシタンの犯行に見せかけて、幕府の追及の目を逸らしていたのだ。 そこへ、キリシタン集団「紅クルス」が乱入し、扇四郎は窮地に陥る。 その混乱の中で、扇四郎は自らの出生の秘密を知る。
彼は徳川将軍家の嫡子であったのだ。 その事実を知った公儀大目付秋沢大学は、スキャンダルを防ぐと称して、扇四郎への恨みを抱く隻腕の怪剣士左文字典獄を唆し、扇四郎の暗殺を企てる。 実は「黒猫組」の首領であり、扇四郎の双子の弟で次期将軍の徳丸の命をも狙っていたのだ。