
「お七狂乱」 昭和37年6月
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親の仇を討つために江戸に出てお七の家に世話になっていた吉三郎だったが、国元から永の暇を出されたのをきっかけに禅の修業のため吉祥寺の寺小姓に入る。離れて初めて互いの気持ちを知るお七と吉三郎だった。
明暦三年、歴史に残る振袖火事が起こる。お七一家も難を逃れ吉祥寺に身を寄せる。乳母にはぐれ群集に押しつぶされかけたお七を救ったのは油久の養子利助だった。利助はお七の美しさに魅かれ何とかして嫁に迎えようと画策する。実は利助は吉三郎が追い求めていた親の仇でもあった。
一方、吉祥寺で吉三郎と再会したお七は互いの気持ちを確かめ合うが、心を残して仮住まいへと移る。利助はお七の両親に巧みに言い寄り金にものをいわせてお七を我が物にしようとする。あくまでも拒むお七。困り果てた両親は吉祥寺の住職に吉三郎をお七から遠ざけて欲しいと頼み込む。
忘れえぬを忘れる・・・。思い乱れながら吉三郎はお七の元を去る決心をし、手紙を安蔵という男に託す。振袖火事の元となった振袖を寺に出入りの古着屋と称して売り買いをしていたのが安蔵であった。そしてその振袖を着ていたのはほかならぬ吉三郎だったのだ。吉三郎の若衆振袖に恋焦がれた娘が三人も死んでいった。供養のため焼かれた振袖が明暦の大火を招いたのだった。
一刻も早く手紙をお七に届けようと雪の夜道を急ぐ安蔵。手紙を読み吉三郎の元に駆けつけようとするお七の前に立ちふさがったのは利助と父だった。安蔵は利助に刺されながらも利助をねじ伏せる。利助と争う内に行灯が倒れ、お七の家は瞬く間に炎に包まれた。狂ったように火を消そうとするお七の父。「この上、自分の幸せまで捨てるな!」安蔵の叫び声に励まされお七は安蔵と雪の夜道を走り出す。
しかし、行く手には町の木戸が・・・!明け六つまでは開かない木戸も半鐘が鳴れば開く。しかし何事も無いのに半鐘を鳴らせば磔である。安蔵は深手を負っていてすでに半鐘の梯子を上る気力が無かった。お七はジッと半鐘を見つめると意を決して梯子を上り始めた。
雪の夜空に鳴り響く半鐘の音。「えれえ・・・よくやった。見なよ、火の手が・・・あれは俺がつけた火だ。これで半鐘を打った罪は消えたぜ。」
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そうなのです。剛夕作品ではあえてお七を処刑させずに吉三郎との幸せな旅立ちを描いています。この本はその昔、店じまいをしたみみずく文庫という貸本屋さんから譲っていただいた本たちの1冊です。数え切れないほど読み返し、カバーも本体もボロボロになっていました。現在の本はインターネットで検索した古書店から新しく購入した二代目です。ちょうど「長篇大ロマン」を集め始めた頃で今ではちょっと考えられないような金額で購入しました。でもお値段だけあって状態は貸本としては大変きれいなものでした。